遺言・相続業務について

ここでは,遺言及び相続の基本的事項について,弁護士が解説します。

1遺言について

⑴遺言とは,死後の法律関係を定める遺言者の最終の意思表示を意味します。

遺言による意思表示には,一定の方式が要求され,書類の形で作成されることになります。

遺言・相続

遺言書は,法的な効力を持つ公式な書類であり,代表的な遺言として,自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言の3種類があります。それぞれの内容や,メリット・デメリットについては,下記⑷にて説明します。

被相続人遺言書を作成していなかった場合,相続手続の中で最も難しいとされる遺産分割協議を行わなければなりません。この分割協議を行うに当たり,被相続人の財産や負債をすべて明らかにする必要がありますが,これが相続等になじみのない一般の皆さまにとって非常に重い負担になる可能性があります。また,遺産相続に必要な書類を集めるのにも苦労する場合もあるでしょう。

そして,何より問題になるのは,遺産分割協議における相続人同士の話し合いです。お金が絡みますので,どのような争いに発展するか実際に蓋を開けてみなければ誰にもわかりません。

話し合いがスムーズに進むこともあれば,逆にお互いがそれぞれの主張に固執して頑として譲らず,感情的なしこりが募るばかりで一向に解決できないケースも少なくありません。

相続人間の話し合いで決着が付かない場合には,家庭裁判所の調停に持ち込み,それでも決着が付かなければ,家庭裁判所の審判に移行します。

このような事態になれば,家族の絆も何もあったものではなく,相続人相互間には一生消えないしこりが残ることでしょう。

このような骨肉の争いを未然に防止するため,余裕をもって遺言を準備し,あらかじめ有効かつ適正な遺言書を作成しておくことが重要です。

⑵遺言で行うことのできる事項

遺言で行う事項として,一般的には,下記①の被相続人の財産に係る財産処分に関することがほとんどですが,以下のような事項を行うことができます。

①財産処分

→被相続人は,自分の財産の処分を自由に決めることができ,その意思は,最大限尊重されます。法定相続人がいる場合でも相続人以外の人にすべての遺産を遺贈することができます。相続人の遺留分について,別に説明します「遺留分侵害額請求権」が行使される可能性はありますが,遺言それ自体は有効です。

②推定相続人の廃除又は廃除の取消

→遺言で,相続人の廃除やその取消の請求を行うことができます。ただし,遺言で遺言執行者を選任しておく必要があり,その遺言執行者が被相続人の死後,家庭裁判所に相続廃除やその取消を請求することになります。

③認知

→認知とは,父親が行う,婚外子との間に法律上の親子関係を発生させる意思表示です。遺言により行うことが可能ですが,遺言で遺言執行者を選任しておく必要があります。被相続人の死後,遺言執行者が認知の届出を行います。

④相続分の指定又は指定の委託

→民法が定める相続人の法定相続分は,遺言でのみ変更が可能です。遺言による相続分の指定の内容が,相続人らの遺留分を侵害するものであっても,遺言自体は有効です。ただし,紛争の火種を残さないように,相続人の遺留分に配慮した遺言をしておくのが無難でしょう。

⑤遺産分割方法の指定又は指定の委託

⑥遺産分割の禁止

→遺産分割をめぐる相続人間でトラブルになりそうな場合は,遺言により5年以内に限って遺産分割を禁止することができます。

⑦後見人及び後見監督人の指定

→子が未成年者の場合,最後に親権を行う被相続人は,遺言により自ら信頼している人を後見人や後見監督人に指定することができます。

⑧遺留分侵害額請求権の行使方法の指定

→兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が認められます。遺留分権利者は,特定の贈与や遺贈によって遺留分が侵害された場合,遺留分侵害額請求権を行使することができます。

遺留分侵害額請求権は,「遺贈→贈与」の順に行使することになっており,被相続人が遺言でこの順序自体を変更することはできません。ただし,遺贈又は贈与,あるいはその両方がそれぞれ複数存在する場合,被相続人が遺言で,どの遺贈(贈与)から先に遺留分侵害額請求権を行使すべきかを指定できることになっています。

⑶遺言の指定相続分と法定相続分の優劣

相続といえば,「民法が定める法定相続分がすべてのケースが妥当する」,「法定相続分のとおり分けなければならない」と考える人が多いようですが,これは大きな誤解です。

遺言による相続分の指定(指定相続分)がないときに限り,民法の法定相続分が適用されるのであり,指定相続分が定められている場合には,被相続人の意思を尊重する観点から,遺言で定めた指定相続分を優先させます。なお,遺言により,特定の相続人に関し,法定相続分を超える指定相続分が定められたとして,その超過分は,特別受益として扱われないものとされています。

⑷遺言の種類及びそれぞれのメリット・デメリット

上記のとおり,遺言の種類として,自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言の3種類がありますが,秘密証書遺言については,実務上ほとんど利用されておりません。ですから,ここでは,自筆証書遺言,公正証書遺言の2つについて,説明します。

<自筆証書遺言のメリット・デメリット>

自筆証書遺言は,誰でも,また,被相続人が1人でも作成でき,簡便で遺言書の作成自体に費用がかからない点がメリットといえます。

ただし,以下のデメリットがあり,実際には,遺言者が専門家の助力を得ずに,有効かつ適正な自筆証書遺言を作成することは非常に困難であると思われます。

  • 要件が厳格に法定されており,形式的な不備による無効のリスクが高い
  • 法律知識のない被相続人が作成した遺言には,解釈をめぐる問題が生じることが多い

→苦労して遺言書を作成したのに,その内容が不明確であるが故に,解釈をめぐる争いが生じ,紛争の長期化等を招くことがあります。

<公正証書遺言のメリット・デメリット>

公正証書遺言とは,遺言者が公証役場に出向くか,公証人に出張を求めて,公証人に作成してもらう遺言です。

公正証書遺言は

  • 証人2人以上の立会の下
  • 遺言者が遺言の趣旨を口授し
  • 公証人が遺言者の口授を筆記し,これを遺言者及び証人に読み聞かせる
  • 遺言者及び証人が,筆記が正確であることを確認の上,各自署名押印する
  • 公証人が,民法所定の方式に従って作成したものである旨付記し,これに署名押印する

という流れで作成されます。

公正証書遺言の大きなメリットは,公証人という専門家が作成に関与するので,遺言書が無効になることがない点と,作成後公証役場で保管されるため,偽造・変造のおそれがない点です。

逆に,作成に相応の費用がかかる点と,証人2人の立会が必要になるので,1人での作成も可能な自筆証書遺言に比べ,遺言の作成事実やその内容の秘密が漏れるリスクがある点がデメリットとして挙げられるでしょう。

⑸遺言がある場合の遺産分割協議の要否

遺言で全財産について遺産分割方法の指定があれば,相続開始と同時に,遺言の指定内容に基づき当然に遺産が分割されますので,相続人相互で遺産分割協議を行う余地はありません。ただし,相続人や受遺者全員が同意すれば,遺産分割方法の指定がなかったものとして,改めて全員で遺産分割協議を行うことができます(遺言執行者がいる場合は,その同意を得る必要があります。)。

他方,遺言で全財産について遺産分割方法の指定がない場合は,遺言の内容等によって,遺産分割の要否が変わります。

①遺言で一部の財産についてのみ遺産分割方法の指定がなされている場合

遺産分割方法の指定がなされた財産については,分割協議を行う余地はありませんが,指定がなされなかった財産については,遺産分割協議を行わなければなりません。

②特定遺贈がなされている場合

特定遺贈とは,たとえば,「不動産はAに遺贈する。甲社株式はBに遺贈する」というように,被相続人の有する特定の財産を具体的に特定して無償で与える行為です。特定遺贈では,権利のみが与えられ,義務は承継されません。特定遺贈の対象となった財産は,遺産分割の対象から除外されますので,遺贈の対象とされなかった財産について,遺産分割協議を行う必要があります。

③包括遺贈がなされている場合

包括遺贈とは,被相続人が財産の全部又は一定の割合で示した部分の財産を与える行為です。この場合,財産の特定がなされていませんし,被相続人の権利のみならず,義務も含めて承継されます。前者,すなわち被相続人が財産の全部を特定の相手に与える遺贈(たとえば,「すべての財産をAに遺贈する」という遺贈)を「全部包括遺贈」といいます。後者,すなわち被相続人が一定の割合で示した部分の財産を与える遺贈(たとえば,「Aに全財産の30%を,Bに全財産の40%をそれぞれ遺贈する」といった遺贈)を「割合的包括遺贈」といいます。

全部包括遺贈の場合は,遺産分割協議を行う必要はなく,相続開始と同時に,すべての資産と負債が当然に受遺者に移転します。他方,割合的包括遺贈の場合は,被相続人が遺言で示した割合を基準とした分割協議を行う必要があります。

⑹遺贈の放棄

受遺者は,遺贈を放棄することができます。放棄の方法は,特定遺贈と包括遺贈とで異なります。特定遺贈の放棄は,いつでも行うことができ,相続人や遺言執行者に対して放棄の意思表示を行います。他方,包括遺贈の放棄は,包括遺贈の受遺者となったことを知ったときから3か月以内に,家庭裁判所に申述して行う必要があります。

2相続について

⑴配偶者の相続権及び血族の相続順位

民法が定める相続人の種類(配偶者相続人,血族相続人),血族相続人の順位は,以下のとおりです。

配偶者は,
常に相続人

第1順位

代襲〇,再代襲〇

第2順位

直系尊属

被相続人に親等が最も近い者が相続。代襲×

第3順位

兄弟姉妹

代襲〇,再代襲×

※なお,血族相続人について,同順位の相続人が複数いる場合,各自その人数で割った均等な相続分を有します。

⑵代襲相続

代襲相続とは,本来相続人になるはずであった血族(「被代襲者」といいます。)が,死亡・相続欠格・相続廃除によって相続権を失った場合,その子や孫などが代わりに相続人(「代襲相続人」といいます。)となることです。

具体的には,被代襲者になるのは,被相続人の子か兄弟姉妹で,代襲相続人は,被相続人の直系卑属かおい・めいです(被相続人の養子は,血族相続人に当たりますが,その養子の連れ子は,被相続人の直系卑属ではありません。したがって,被相続人の養子が既に死亡している場合に,その連れ子が代襲相続人になることはできません。)。

⑶法定相続分と指定相続分

上記1の⑶で説明したとおり,相続分については,原則として,被相続人の遺言で定められた割合(指定相続分)が優先し,遺言がなければ,民法で定められた法定相続分に従うことになります。

民法が定める相続人の法定相続分は,以下のとおりであり,実際に誰が相続人になるかによって,それぞれの法定相続分が変化します。

  • 配偶者と子(第1順位)が相続人となる場合
    →配偶者の相続分が2分の1,子の相続分が2分の1。子が複数いれば,各自その人数で割った均等な相続分を有します。
  • 配偶者と直系尊属(第2順位)が相続人となる場合
    →配偶者の相続分が3分の2,直系尊属の相続分が3分の1。直系尊属が複数いる場合は,前同様。
  • 配偶者と兄弟姉妹(第3順位)が相続人となる場合
    →配偶者の相続分が4分の3,兄弟姉妹の相続分が4分の1。兄弟姉妹が複数いる場合は,前同様。

⑷相続欠格,廃除

相続欠格とは,本来であれば相続人になるはずの人でも,民法891条が定める一定の欠格事由(たとえば,被相続人を故意に殺害した,あるいは,不当な利益を得る目的で,被相続人が作成した遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合など)があると,特別な手続を要さずに,相続欠格者は相続権をすべて失うことをいいます。

また,相続廃除とは,相続欠格ほどの事由がなくても,たとえば,特定の推定相続人が被相続人を虐待したなどの事情がある場合に,被相続人の意思により,対象者の相続権を奪うことができる制度です。相続廃除を行うには,家庭裁判所の審判が必要です。廃除の取消も可能ですが,その場合,生前に家庭裁判所に取消を申し立てるか,遺言で廃除の取消の意思を示す必要があります。

⑸相続の承認(単純承認,限定承認),放棄

相続が開始すると,相続人は,自らの意思に関係なく被相続人の財産を包括的に承継する地位につきます。しかし,たとえば,被相続人が資産よりも,多額の負債を遺して亡くなった場合など,相続人が被相続人の財産を相続したくないとの希望を持つこともあり得ることから,民法は,被相続人の財産を相続するか否かにつき,相続人に選択の余地を与えました。これが相続の承認と放棄の問題です。注意いただきたいポイントは,以下のとおりです。

  単純承認 相続の効果を確定的なものにする相続人の意思表示。すべての資産,負債を相続。 3か月の熟慮期間内に選択をしない,一定の態度をとった場合,単純承認したものとみなされる。
  限定承認 被相続人の残した債務を相続財産の限度で支払うことを条件に相続を承認する相続人の意思表示。 3か月の熟慮期間内に家庭裁判所に申述する必要。複数の相続人がいる場合,全員共同して行う必要あり。
  相続放棄 相続の効果を確定的に消滅させる相続人の意思表示。資産,負債とも相続しない旨が確定。 3か月の熟慮期間内に家庭裁判所に申述する必要。相続放棄は代襲なし。

⑹特別受益,寄与分

共同相続人の相続分を具体的に確定するに当たり,相続開始時に実際に存在する財産の価格を計算の基礎とするのが原則です。しかし,この原則を貫くことで,相続人間の公平に反する結果をもたらす場合があります。このような場合に相続人間の不公平を是正する制度として,「特別受益」,「寄与分」の制度があります。

「特別受益」とは,相続人が被相続人から特別に財産をもらうことを意味します。特別受益があった場合,相続開始時に存在する全財産に特別受益に当たる贈与(生前贈与)を加えたものが全相続財産(みなし相続財産)となり,この全相続財産を基準として,共同相続人の具体的相続分を計算します。そして,特別受益を受けた相続人の具体的相続分を計算する際には,特別受益を前渡し分として差し引きます。

「寄与分」とは,被相続人の財産の維持又は増加に「特別の寄与」(財産形成に対する特別な貢献)をした相続人に対して,本来の相続分とは別に,寄与分を相続財産の中から取得できるようにする制度です。

寄与分の算出方法ですが,まず,相続開始時に存在する全財産から寄与分を控除した「みなし相続財産」を決定し,その上でみなし相続財産を基準に,共同相続人の具体的相続分を計算し,寄与分については当該相続人に与えます。

3遺言・相続問題を早期に弁護士に依頼するメリット

遺言・相続問題を早期に弁護士に依頼するメリット

お金の絡む相続問題は,骨肉の争いに発展することが珍しくなく,そのような悲しい事態を招くことがないように,余裕をもって遺言を準備し,あらかじめ有効かつ訂正な遺言書を作成しておくことが重要です。

しかし,遺言書の要件が厳格に法定されているため,一般人である皆さまが独力で有効な遺言書を作成することは至難の業でしょう。また,多大な労力を費やして有効な遺言書を作成できたとしても,その内容が不明確であるため,解釈をめぐる争いが生じ,紛争の長期化等を招くことがあり得ることも既に述べたとおりです。

そのような事態にならないように,遺言書の作成を思い立ったら,早めに遺言・相続に精通した弁護士に相談し,手続を依頼することをお勧めします。

相続手続の中で最も難しいとされるのが遺産分割手続ですが,これを専門家の関与なく,一般の皆さまだけで迅速かつ適切に行うことは非常に厳しいと思われます。

まず,分割協議を行う前提として,遺産の範囲や相続人の範囲を確定する必要がありますが,相続に関する法律知識や経験のない皆さまにおいて,これらを調査し確定することはまさに至難の業です。

そして,いざ分割協議を開始しても,目の前に人参をぶら下げられれば,少しでも多くの分け前を得ようと必死になるのが「人間の性」というものでしょう。互いに利益の獲得に血眼になって自分の主張に固執し,どれだけ時間をかけて協議を重ねても,感情的なしこりが募るばかりで一向に解決できない,そのような悲惨な状況に陥るケースも決して珍しくありません。

ましてや特別受益や寄与分等が絡むケースであれば,専門家の関与なくして共同相続人間の公平にも適った適正な結論を得ることなど到底不可能でしょう。

一つ間違えれば,骨肉の争いの発展しかねない遺産分割協議こそ,遺産相続をめぐる法律や手続に精通した弁護士を早期に関与させ,弁護士が常に客観的・第三者的視座を持ちながら,分割協議手続を主導していくことが非常に重要なのです。

当事務所では,遺言書の作成や相続問題に積極的に取り組んでいます。当所弁護士は,20年に及ぶ検事としての捜査公判業務を通じて培われた事実認定力,証拠収集力及び対人交渉力には定評があり,自信もあります。親身になってお話を伺い,お客様ごとの最適解を求めて,迅速かつ適切に対処してまいりますので,遺言書の作成や遺産分割協議を検討されている皆さまも,安心して当事務所にご依頼ください。

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