最高裁判所裁判官の国民審査って一体何?

皆さま,こんにちは。

 弊所のコラムをご覧いただき,ありがとうございます。

 本年10月31日,第49回衆議院議員総選挙の投開票が行われました。事前の予想では,野党共闘による候補の一本化が功を奏して,与党側が大幅に議席を減らし,立憲民主党を中心とする野党共闘勢力が躍進するという見方が根強くありました。しかし,フタを開けてみれば,改選前に比べ議席を減らしたものの,自公連立与党において,国会運営を安定して主導できる293議席を獲得する,与党勝利の結果で幕を閉じました。

 ところで,今回の衆議院議員総選挙の投票に併せて最高裁判所裁判官の国民審査が実施されました。この国民審査制度は,皆さまにとって普段なじみが薄く,どのように対応すべきか迷われた方も少なくないように思われます。そこで,今回は,この国民審査制度について,制度の概要をご説明するとともに,若干所感を述べさせていただこうと思います。

1国民審査制度の概要

 最高裁判所裁判官の国民審査は,日本国憲法に明記された制度です。憲法の存在意義は,国家権力の濫用により,私たち国民の権利や自由が不当に制約・侵害されることを防ぐことにあります。憲法は,この究極の目的を実現するため,国民に保障される基本的人権に関する規定のほか,国の統治機構や権力作用についての規定を設けています。三権分立制度や,各権力作用に対する民主的コントロールの制度は,すべて国民の権利や自由を守るためのものです。最高裁判所裁判官の国民審査は,「司法権」という権力作用に対し,民主的コントロールを及ぼすものであり,国民主権を具体化する大切な制度です。

 最高裁判所には,15名の裁判官がいます。長官と14名の裁判官であり,憲法判断等を担当する大法廷は,15名の裁判官全員で構成されます。3つの小法廷は,それぞれ5名の裁判官で構成されます。最高裁判所裁判官は,裁判官のほか,検察官,弁護士,行政官,学識経験者などから選ばれます。最高裁判所長官は,内閣の指名に基づき,天皇が任命します。また,長官以外の14名の裁判官は,内閣が任命します。

 最高裁判所の裁判官は,任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の投票日に国民審査を受け,この審査の日から10年を経過した後に初めて行われる衆議院議員総選挙の投票日に更に審査を受けます。衆議院議員の選挙権を有する人は,最高裁判所裁判官の国民審査の投票をすることができます。

2裁判所は,『人権保障の最後の砦』/国民審査権は,国民の権利を守る重要な手段

 皆さまも耳にしたことがあろうかと思いますが,裁判所は,「人権保障の最後の砦」です。私たちが日常生活を送る中で,他人との間でもめ事や紛争を抱えることは誰にでもあり得ることです。相手との話し合いで円満に解決できれば,それに越したことはありません。しかし,当事者間での話し合いでは,糸のもつれが酷くなるばかりで,解決が一向に図れないケースもあり得ます。このような場合に,当該もめ事や紛争の解決を持ち込む先が,裁判所が司る司法になります。また,私たちの人権の不当な制約・侵害が問題となり得るのは,個人間の紛争ばかりではなく,法律や条例,行政権を担う国の機関や自治体の行政行為によって,私たちの人権が不当に侵害される事態も起こり得ます。このような場合に,私たちが救済を求めるのも裁判所です。

 このように,裁判所には,私たちの権利や自由が不当に制約されたり,侵害されたりしていないかをチェックし,権利等の不当な制約などが認められる場合に,必要な救済措置を講じる役割が期待されています。裁判所に対し,このような重要な権限が与えられていることが,裁判所が「人権保障の最後の砦」と称される所以です。裁判所が人権の最後の砦として有効に機能するには,司法権を実際に担う裁判官一人ひとりが権限を適切に行使することが何より重要です。    

 上記のとおり,裁判官は,内閣が指名し,あるいは,任命しますので,その選任に私たち国民の意思は直接及びません。それ故に,私たち国民が日々の裁判官の職権行使の内容等に関心を払い,仮に人権保障の砦たる職責を担わせるに相応しくない非行その他の問題等が認められれば,憲法に規定された国民審査権を行使して,問題ある最高裁判所裁判官を罷免することが制度として保障されています。このように,最高裁判所裁判官の国民審査制度は,私たち国民に与えられた重要な権利です。

3最高裁判所裁判官に係る公開情報及びそれを踏まえた適切な権限行使

 建前論を申し上げれば,上記のとおりです。しかし,現実には,皆さまは,仕事や学業,家事,育児等をこなすので精一杯であり,日々の裁判官の職権行使の内容等に関心を払うことなど不可能でしょう。そもそも,新聞やテレビ等のマスコミ報道により,最高裁判所等で審理される事件の内容や裁判の結論などが報じられることはあっても,個々の裁判官に係る詳しい内容に言及されることはまずありません。「重要な権利であることは分かったが,そもそも我々には,国民審査権の行使に必要な裁判官に係る情報が与えられていないのだから,審査権の適切な行使など不可能ではないか。」といった不満の声が聞こえてきそうですね(笑)。私もそのように思いながら,ネットサーチしておりましたところ,現在,最高裁判所のHP(https://www.courts.go.jp)では,国民審査権を適切に行使する上で有益と思われる,最高裁判所裁判官に係るそれなりに詳しい情報を掲載していることを確認しました。私も長く裁判実務に携わってきましたので,裁判所がどういう組織であるのかそれなりに承知しています。裁判所は,数ある役所の中でも,保守的傾向が強く,国民に対する情報公開も遅れていると認識していました。しかし,私たち国民の情報公開に向けた不断の努力も影響してなのか,思いのほか多くの情報が掲載・提供されていることが確認でき,良い意味で驚かされました。

 最高裁判所裁判官に関する情報についていえば,15名全員につき,それぞれの顔写真が掲載されているほか,氏名,生年月日,所属する小法廷,略歴,裁判官としての心構え,好きな言葉,趣味,最高裁において関与した主要な裁判の内容等の情報にアクセスすることができます。

 審査対象に係る情報がほとんど与えられていない状況であれば,審査権限の適切な行使を求められても,甚だ迷惑な話でしょう。しかし,上記のとおり,現在,最高裁判所のHPでは,国民審査の対象たる個々の最高裁判所裁判官に係る詳しい情報が掲載・提供されています。これだけの情報が日常的に公開されていることに気付いている人がどれだけいるかといえば,それほど多くないと思われます。その意味で,裁判所のこれら公開情報に関する広報の在り方等に課題はあると思いますが,最高裁判所裁判官に係る,これら公開情報を把握した上で,国民審査に臨むのであれば,より主体的で,適切な審査権の行使が期待できるのではないでしょうか。

 審査される側の裁判官にとっても,自分たちに係るそれなりに詳しい情報が国民の側に行き渡り,そのような状況において自分たちの職権行使に国民の注意・関心が注がれていると意識することで,日常の業務により一層緊張感が伴います。そうなれば,それが裁判官の適切な職権行使にプラスに作用することはあっても,マイナスに働くことはおよそあり得ないでしょう。

 上記のとおり,最高裁判所裁判官の国民審査は,任期途中での解散があり得る衆議院議員総選挙の投票日に併せて実施されます。ですから,次回の国民審査がいつになるかを今から具体的に予測することはできません。ただ,上記のとおり,国民審査権は,究極的には,私たち国民に対し,その権利や自由を守るために与えられた重要な権限ですので,皆さまも,審査対象たる裁判官に係る詳しい情報を把握した上で,次回国民審査に臨まれてみてはいかがでしょうか。

 本日は,弊所のコラムをご覧いただき,改めて感謝申し上げます。皆さまとのご縁に感謝し,日々精進して参ります。

お問い合わせフォーム

 

ページの上部へ戻る

keyboard_arrow_up

05055270312 問い合わせバナー