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1 事業の撤退
企業運営において重要なことは、整理、あるいは撤退をせざるを得ないと判断した場合に、この整理や撤退をスムーズに行うこと、また整理や撤退に伴う損失を最小限に抑えることであり、そのためにはどうしたらよいかの点です。一般的に、企業にとっては、事業の整理や撤退だけでなく、マーケットからの撤退を意味する場合もあります。また、将来の期待利益を放棄すること、さらには最悪の場合投資額全額の放棄に加え、追加負担さえ生じる可能性があることも念頭に置いておく必要があります。
つまり、事業の整理、あるいは撤退は、いずれも英断が要求される重要な経営上の意思決定であるといえます。この撤退等の意思決定がタイムリーに、適切に行われず、そのうち改善するだろうなどと安易に考えて投資が継続された結果、損害が拡大したようなケースも過去に少なくありません。事業の整理、あるいは撤退をしなければならないときは、果敢に決断すべきであることは、我が国国内での事業の場合だけでなく、海外事業からの撤退についても妥当します。
⑴ 撤退の原因
一般的に事業の整理・撤退の原因が事業パートナーとの考え方の違いであるとかマネジメントの方法などの内部的な問題であれば、マネジメント担当者の交代や、やり方・方法を変えるなどにより当該事業を継続することも十分可能だと思われます。しかし、海外事業からの撤退について、たとえば現地の政治・経済・社会の変化等の外的な要因による場合は、自助努力だけではどうしようもないことが多く、事業の整理・撤退を余儀なくされることも少なくありません。
また、事業投資の目的が明確でなく、あるいは十分なリスク分析ができておらず、商圏の確保ないしその維持のためにはやむを得ない、また他の企業も投資しているから自分たちもというような消極的な理由による場合もあります。投資すべきではない案件にまで投資を実行したため、途中で整理・撤退もできず、損失ばかり拡大して、結果的にこれ以上はどうやっても無理だというところに至ってはじめて整理・撤退を決意するようなケースも決して少なくないように思われます。
現実には、一旦決定し、あるいは実行してしまうと、途中でやめる決断をすることには非常に抵抗が強く、困難を伴う傾向があります。特に事業投資などは投資を一部でも実行すると、それを失うことを過度に嫌がり、ダメだと頭ではわかっていても、いずれ良くなるだろうなどと安易に期待を抱き、そのまま投資を継続してしまうことが少なくありません。
これは意思決定のシステムに問題があるのか、結果が優先という業績評価のシステムに問題があるのか、あるいは他がやっているからという一種の使命感で投資を実行しているといったように、自ら明確な投資目的を設定していないことが原因で、途中で事態が変化した場合に整理・撤退などという柔軟な対応ができないからであるとも考えられます。
⑵ 整理・撤退上の問題
事業の整理、あるいは撤退を考えるに当たり、ここでは、様々な問題をはらんでいるアジア諸国を例として取り上げますが、アジア特有の問題をまず検討することが必要となります。
アジア各国への進出に関しては、当該国の外資奨励政策、自由化という規制緩和の流れのほかに、外資に対しての制約が存在しています。国によっては、業種により様々な思惑から外資側の出資比率に規制がかけられている場合が多く、国内産業保護のために小売業等への外資の出資は認めない、あるいは宗教・社会慣習・社会情勢などによる制約もあります。その結果、アジアにおける直接投資は、多くの場合現地パートナーとの合弁事業の形態をとらざるを得ないのが現実です。これが、事業の整理、あるいは撤退の場合にも関係することになり、自由に持分を処分できないなど合弁事業のリストラや撤退交渉をより複雑にしている面があるといえます。
また、アジア諸国における投資事業の場合には、合弁事業の相手企業の資金調達能力の問題や、日本企業が資金のほとんどを調達する義務を負っている場合や、パートナーが政府関連企業であったり、公共性の高い事業であったり、整理・撤退自体に政府の許可が要求されたりするなど、簡単に事業の整理、あるいは撤退を認めてもらえないような場合が多いのも特徴になっています。そして、事業の整理・撤退についての国ごとの制度や事情は、法的な権利義務を超えて対応せざるを得ない国もあることが、このアジアでの投資事業の特徴の代表的なものであり、事業の整理、あるいは撤退の難しさであるといえます。
たとえば、経営不振に陥り、事業の整理・統合の対象となった中国の政府系ノンバンクに対する外国金融機関の債権回収が事実上不可能になるような事態が発生したことがあります。これは日本でいえば最高裁判所に当たる中国最高人民法院が「債権者の訴えをしばらく受け付けず、既に回収を認めた判決の執行を凍結する。」という内部通達を出したことによります。
日本や欧米でも、破産手続や会社更生手続を行っている場合には、債権回収などのための強制執行手続や訴訟手続などが他の債権者の権利を侵害する場合、あるいは会社の更生に支障が生じるような場合には、これらの手続を停止するという対応も認められていますが、中国最高人民法院が取った上記の措置は、この停止措置の範囲を超えているとも考えられ、国際的なルールを逸脱していると強く非難されているところです。
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