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取引の審査及び取引リスクの管理その2

2022-07-04

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1 M&A取引・事業再編

 グローバルな事業活動を展開していくための手段として、新規に法人等の組織を構築するばかりでなく、既存の企業の全部又は一部を買収するということがよく行われています。この企業買収を「M&A」と呼んでいます。対象企業の一部を買収する場合には、既存株主との共同事業にしたり、新たなパートナーと共に共同事業として経営を行ったりする場合もあります。

 他方、買収した事業を自社の既存事業と合体させたり、分社化したりするなど、事業を再編することも日常的に行われています。

 国内におけるM&A取引、つまり企業買収には、大別して、株式を買い取る場合と、資産や事業を買い取る場合とがありますが、いずれの場合も、当該企業に対する支配権を確保することが重要になります。企業の支配権を確保する場合には、企業の株式買収とか、事業の資産買収にかかわらず、人的資源及び取引先との契約等も承継するかどうかにより、その選択肢が決まることになります。国際的な企業買収とは、買収対象企業やその資産が法制度の異なる国に存在する場合であり、単に商品や情報あるいはその他の権利を取得するだけでなく、経済活動を実施している主体の全部又は一部、あるいは従業員という人的資源も取得する場合もあるために、様々な紛争が生じる可能性があります。

 たとえば、企業の設立などは会社法に基づくことになりますが、会社法は、世界に共通して通用するものではないため、個々の国家が制定した法律制度の相違や、当事者間での考え方・価値観の相違により紛争が生じやすくなります。また、買収に当たり検討すべきリスクや法的検討課題が多様化するとともに、買収後の企業の運営や経営上の紛争などが起こりやすく、実際に問題となることも少なくありません。

 米国企業を買収した日本企業が、日本とは異なる慣行にとまどい、各種ハラスメントや雇用問題などで多額の損害賠償請求を受けるようなケースも多発しています。また、事前に法制度などを含め、十分な調査を行わなかったために、買収後に予想外の問題が発生し、その処理をめぐり紛争となることも十分にあります。この点は、外国企業が日本において日本企業を買収する際などにも同様の問題が起きます。ちなみに、合併や新たに導入された株式交換などによる企業の買収が行われるようになると、従来適用されていた会社法がどこまで適用されるのかが問われることになります。逆に、株式交換により米国企業の株主となり、その権利義務関係も米国の会社法に準じて理解しなければならないということが考えられます。

 他方、複数の企業が合同で企業買収を行ったり、買収後に複数の企業が共同で企業の経営を行ったりするようなケースも少なくなく、一般的に合弁事業と呼ばれていますが、このような合弁事業の運営に関して問題が発生することもあります。合弁事業の運営に際しては、当初の目論見とは異なり、当事者間で意見の相違などが起き、合弁事業の円滑な運営ができなくなることもあります。そのような場合に合弁事業を継続するかどうか、あるいは清算すべきかどうかなどで意見の対立が生じ、当事者間で抜き差しならぬ紛争に発展することもあります。これらの紛争は企業買収そのものというよりは合弁事業という企業の運営に係る紛争というべきものであり、買収後の経営統合という問題をあらかじめよく検討しておく必要があります。

2 経営統合

 国内外で、規模の大小を問わずM&Aや事業提携・事業再編等が盛んに行われています。しかし、買収や再編などを行ってみたものの、買収企業と被買収企業との間、あるいは再編の対象となる企業やその役職員等との間において、買収・再編後のマネジメントや組織体制、人事の交流などで支障が生じ、企業経営を円滑に実施することが難しくなり、あるいは失敗に陥るケースが決して少なくありません。

 この企業買収後あるいは再編後の企業経営が順調に運営できるかどうかが、経営統合の問題として強い関心がもたれるようになっています。最近では、買収や再編後の経営統合を見据えた買収の検討、特に企業のガバナンス体制や経営体制、つまり経営陣をどう構成し、どのように処遇するかという点、さらには、組織や人事制度をそのまま残すかどうかを含め、経営統合が重視されています。企業の経営統合をスムーズに進めることが、買収や再編を成功させるという点で、非常に重要な企業買収や企業再編等の要素であると考えられています。

 この買収・再編後の経営プロセスは、「PMI(Post Merger Integrationの略)」と呼ばれています。M&Aによる統合効果を確実にするためには、M&Aの初期の検討段階より統合を阻害する可能性のある要因等について事前の検証を行い、統合後にそれを反映させた組織統合マネジメントを推進することが重要であるとされています。一般的には、企業買収の場合、ほとんどの関心や努力が買収を実現させることに向けられており、買収直後の経営体制や運営体制までを意識することは、後回しになってしまっているケースが少なくないように思われます。

 PMIの対象となるものとして、大きく分けて、①経営統合、②業務の統合、③内部統制の統合、④意識の統合などが挙げられます。④の意識の統合とは、企業風土や文化の統合などを意味するもので、これは短期間では非常に難しいですが、企業買収や経営統合、事業提携を成功に導く上で、時間をかけてでも実現していかなければならない問題だといえます。

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取引の審査及び取引リスクの管理その1

2022-06-27

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1 新規取引の管理

 企業において、内部統制システムが整い、法令等遵守のための社内規程等が整備された場合に、それらの遵守を徹底するために中心的な役割を担うのは、法務部門にほかなりません。

 一般的に、企業は、そのビジネス活動や業務の発展、また、その経営の継続性を確保するためにも、新しい製品等の開発や新規分野への進出など、常に新たな取引にも取り組んでいくことが求められています。このような新規取引のなかには、企業として取り組むべき相手かどうかや、取引内容として適切かどうかが疑問となるような取引もあるのではないでしょうか。従来から継続して行ってきた取引などは、それまでに積み重ねてきた過去の経験等で、法的なリスクについて分析が行われており、法的リスクへの対応や備えもある程度できています。他方、新規の取引や取引先に関しては、この辺りの法的なリスクマネジメントを徹底して行うことが求められます。新規取引の内容に関しては、不用意にも架空取引に巻き込まれるケースや、マネー・ロンダリングなど組織犯罪に巻き込まれる可能性もゼロではありませんので、より慎重な対応が求められます。そのために、法務部門としては、当該取引に関与することになった経緯など、取引自体の必要性を含め、合理的な説明ができるのか、また、取引自体に異常性はないか、さらには、組織における意思決定の過程において、当該企業の経営理念や社訓等に違背していないかなどの観点からのチェックも必要になります。

2 重要プロジェクトの管理

 企業にとって、大型投資が必要なプロジェクトや、経営にとって影響を及ぼす可能性のある重要プロジェクトへの参加は、企業経営にとって戦略的な面で常に必要とされることとなります。特に、グローバルな事業投資等においては、その法的問題や運営上の問題だけでなく、投資環境や現地への影響度なども意識しておくことが必要です。

 通常は、このような重要プロジェクトを開始する場合、関連する部署・組織を巻き込み、様々な部門のメンバーから構成されるプロジェクトチームが結成されることが多く、そこで詳細な検討が進められていくことになります。そのなかで、法務部門としては、事業投資先における法的な情報や投資規制等の投資環境など、初期的調査を含むインフラ環境の調査を行うことが求められます。場合によっては、現地弁護士を含む、社外の専門家を起用することもあります。そして、初期段階で、ある程度の概要が判明すれば、それを踏まえたより詳細な調査を行うこととなり、当該プロジェクトの実現可能性等を判断することになります。これは、「フィージビリティ・スタディ」と呼ばれており、法務部門としては、様々な法的規制、特に外資規制、外為法、税法、労働関係法などの調査を実施します。

 また、共同パートナーを起用する場合には、関係する情報交換等が行われることになりますので、必要に応じて秘密保持契約を締結する、あるいは、当該プロジェクト実施を決定し、それを前進させるためにも予備的な合意書を交わすことなどがあります。予備的合意は、一般的にその確認時点での当事者間の合意事項や正式契約締結までに解決すべき懸案事項などを確認する手段として利用されますが、それ以外にも誠実交渉義務、秘密保持義務、独占的交渉権、交渉の過程で第三者から申込みを受けた場合などの優先的権利等が規定される場合もあります。

 フィージビリティ・スタディにおけるプロジェクトの実現可能性には、当然のことながら当該プロジェクトの採算性なども含まれますが、法務部門としても、具体的な事業計画や資金調達計画、人員計画を含め、全体的なスキーム作りや、作成すべき契約書類がありますので、その内容等を十分に理解しておくことが求められます。

 万が一にも、コンプライアンス違反を生じさせるようなことがあれば、当該プロジェクトからの撤退を余儀なくされることにもなりかねません。また、我が国の親会社をも含めた訴訟リスクや信頼等の失墜による事業上の重大な損失に繋がる可能性もありますので、この点十分に留意すべきでしょう。

 

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カントリーリスク対応

2022-06-19

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1 カントリーリスクの意義

 カントリーリスクとは、一般に「海外投融資や貿易を行う際、個別事業・取引の相手方が持つリスクとは別に、相手国・地域の政治・社会・経済等の環境変化に起因して、当初見込んでいた収益を損なう、あるいは予期せぬ損失が発生する危険」と定義されています。そして、カントリーリスクが発生する具体的な形態としては、以下のような事象が想定されています。

  •  国際収支の悪化等から外貨不足に陥り、個別事業・取引に関わる元本・配当・利息や代金の国外送金が制限される、あるいはできなくなってしまう。
  •  急激なインフレーションや為替相場の変動などで、個別事業・取引に関わる元本・配当・利息や代金の受取金額が大幅に目減りする。
  •  革命などによる政権交代で、新政権が債務の継承を拒否する。個別事業・取引の相手方の資産に対し、国有化や国家権力による収容・没収等の危険性が増大する。
  •  内乱、暴動、外国の侵略、戦争等により、現地における個別事業・取引の遂行に支障を来たす。
  •  国際関係、国際情勢の変化により、個別事業・取引の円滑な推進・遂行が困難になる。

 一般に、開発途上国においては、カントリーリスクが高いと考えられていますが、先進国でも、たとえば財政上の失敗により外貨を獲得できず、対外債務の決済に問題が生じ、事実上の破綻となるような国もあります。このカントリーリスクは、国内総生産(GDP)、国際収支、外貨準備高、対外債務、司法制度などのほか、当該国の政情や経済政策などといった要素を考慮して判断されることになります。日本貿易保険(NEXI)においては、経済協力開発機構(OECD)カントリーリスク専門家会合において、国ごとの債務支払い状況、経済・金融情勢等の情報に基づき議論を行い、それぞれの評価が決定され、このOECDの評価に基づき、国・地域のカテゴリーが決められています。

 このカントリーリスクは、海外への赴任者を守るという観点から、赴任者やその家族の安全を侵害するリスク、たとえばテロ・誘拐等のリスクについても認識されていますが、贈収賄リスク等もその対象になっています。

2 地政学リスク

 また、同様のものとして、地政学リスクというものがあります。これは、一般に、ある特定地域が抱える政治的・軍事的・社会的な緊張の高まりが、地球上の地理的な位置関係により、その特定地域の経済、あるいは世界経済全体の先行きを不透明にすることと定義されています。地政学リスクの二大要因として「地域紛争の勃発」と「テロの脅威」が挙げられており、経済活動がグローバル化する中で、そのリスクは全世界的に影響を及ぼすことが多くなっています。

 現在進行中のロシアのウクライナに対する軍事侵攻のほか、中国の覇権主義的な行動・海洋進出、イランとアラブ諸国の対立、パレスチナ紛争、アフガニスタン内戦、北朝鮮の核開発・ミサイル発射問題、世界各地で多発するテロ問題等があります。

 このような地政学リスクが高まれば、地域紛争やテロへの懸念などにより、原油価格等の商品市況の高騰、外国為替の乱高下等を招き、企業の投資活動や個人の消費者心理に悪影響を及ぼす可能性があります。

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企業のコンプライアンス対応

2022-06-12

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1 コンプライアンスの意義

 法令や規則等のいわゆるハードローといわれているものの遵守は、企業にとって最低限の義務であるとの認識の下、社内の規則等や社会規範、企業倫理などに加え、それぞれの企業が持つ価値観(企業理念や社是・社訓など)に照らし、社会的に許容される範囲で企業の経営が行われることがコンプライアンス(法令等の遵守)に沿った経営であり、このような経営が、理想的な「コンプライアンス経営」であると認識されています。それを企業として、より具体的な価値判断基準として示したものが「企業行動規範」「企業行動基準」であり、それらは多くの企業によって策定されています。これら全てを遵守することがコンプライアンスだという時代になっていると思います。

 コンプライアンスとは、法令のグレーゾーンも含む法律専門家の判断、アドバイスに基づいて行動する部分も含まれており、法令だけでは網羅できない部分の遵守、つまり社会の構成員としての企業、企業人として求められる価値観、倫理観、その他の社会的規範、業界としての自主的なルール、利潤の最大化、事業の効率化、雇用の促進など、また人権や文化の尊重、環境保全、安全性なども対象とされており、最近では、社会的責任などもこの対象だとされています。

 この法令等の遵守、つまりコンプライアンスのプログラムは、会社法でも求められている内部統制システムの重要部分となっており、これは、もともとは企業会計システム全体のコントロールを確立するという意味でした。その目的としては、業務の効率性の確保、財務報告の正確性の確保、及び企業行動における法令等の遵守とされています。

2 コンプライアンスの必要性

 コンプライアンスが強調されるようになったのには、社会環境の変化があります。そこでは、コンプライアンス違反を起こした結果、不祥事による企業のダメージが大きくなったこと、また組織主義的な価値観から個人主義的な価値観への転換とともに、雇用の流動化が進み、内なる国際化と呼ばれるグローバルスタンダードの要請、企業の社会的責任(CSR)が重要な企業戦略の一つであるなどとされた社会環境の変化があります。

 また、事前規制型社会から事後規制型社会への転換や、民法改正、商法改正、独占禁止法改正、公益通報者保護法の成立、有価証券報告書開示などの法規制の変化、また経営トップの意識・姿勢の変化があります。特にコンプライアンス態勢構築へのリーダーシップ発揮とともに、経営トップの熱意等に基づき、コンプライアンス担当部署の設置や、経営トップによる社員に対する継続的啓蒙活動が推進されました。コンプライアンスは会社の最重要経営課題であるという意識付けが、入社式や年頭・年度初めの挨拶、経営方針発表等社内向け公式行事や社内報等で行われています。

3 コンプライアンス態勢の構築

 コンプライアンス態勢の構築に当たり、何を実現すべきかという問題がありますが、基本的には、全社を挙げた仕組み作りにおいて、経営者や管理者だけでなく、一般社員も与えられた役割を果たすこと、それにより内部統制システムを構築することであるといえます。そのためには、法律や規則などの十分な理解、手続等の正しい処置、疑問・不安を残さない仕事の進め方などを含め、仕組みの整備と運用(いわゆるPDCAサイクルの展開)とともに、経営トップによる社風構築のための社内外への決意表明、率先して制度・行事・取組みにコミットするということが必要です。

 そのような仕組みが機能するためには、経営トップからのコミュニケーションだけでなく、従業員からトップに向けたコミュニケーションも円滑になるようなコミュニケーション・システムを整備し、それを適切に運用することが必要です。そこには、報告・連絡・相談体制の構築や、また、行動基準やマニュアルの整備、社員が疑問点等を気軽に尋ねることができる部署の設置、コンプライアンス担当部署と各部門のコンプライアンス担当者からなるコンプライアンス委員会などの体制整備も必要になります。

 そして、多くの企業において設置されている、いわゆる内部通報制度の設置も必要になります。これは、企業外部への告発が行われる前に、社内に通報されることにより、企業内部の自浄作用により適切な解決を図ることを趣旨とするものですが、秘密保持、公正な調査など、企業としての適正な対応が求められることになります。特に、重要になるのが経営トップの意識の変革であり、内部通報の存在意義を認め、社内の意識改革をすることなど、社員への明確な意識付けが必要となります。

 通報受理後の調査体制として、実質的な調査のできる体制の構築や企業内部の協力体制、また調査後の通報者への報告することが必要であり、最大でも20日以内に行うことが必要とされています。

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企業における危機管理対応

2022-06-05

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1 序言

 危機(Crisis)は、それが一度生じた場合には、企業及びその関係者に多大な損害を及ぼさずにはおきません。企業の危機管理という観点からは、危機とは、企業の異常損失の原因となり得る、差し迫った、あるいは既に発生しつつある危険であるとされています。自然災害やテロ行為等、企業が行う商行為以外の原因で、企業の意思に反して被る損害であると定義づけることもできると思われます。また、その被害の対象は、人命、企業の商品その他の資産、企業活動そのもの、企業の社会的信用など、非常に広範囲に及ぶことになります。

2 危機管理の意義

 企業は、地震や津波などの自然災害、不買運動、製品リコール、コンピュータシステムのウイルス感染等の多種多様なリスクに直面しています。一度これらのリスクが顕在化すると、稼働が中断するなど企業活動が機能不全に陥り、全社的な経営にも大きな影響が及びかねません。したがって、企業が将来損害として被る可能性のある潜在的リスクを事前に予測して、各種リスクの顕在化への対策を講じることはもとより、不幸にも重大なリスクが発生してしまった場合の対応プランを事前に準備しておくことはとても大切です。そのような準備を怠れば、獲得利益の喪失、企業イメージ・信用・評判の悪化につながり、最悪の場合には、企業の不祥事の発生による場合と同様、企業の倒産等の結果に至る危険すらはらんでいます。

 ここでは、様々なリスクの中で、自然災害など外部原因に起因する危機を例に話を進めます。災害等対策・危機管理とは、「クライシス・マネジメント」とも呼ばれます。主としてその対象になるのが、2011年3月11日発災の東日本大震災に代表されるような大規模自然災害のほか、2001年9月11日発生の米国同時多発テロ当に代表される戦争・テロ、コンピュータシステムへのサイバー攻撃等も対象となり、それらに対する対策及び事後処理を意味しています。

 これまでは、このような外部的要因による災害等の対応については、そもそも不可抗力であり、避けることのできない、やむを得ないものであるという受け止めも根強かったのですが、それでも企業の維持や存続にとっては非常に重要な問題です。つまり、企業の維持・存続のためには、これらに如何に対処していくか、あるいは管理していくかが、企業の経営にとって非常に重要な課題となっています。

 クライシス・マネジメントの目的は、危険防止・危機管理を含め、企業の倒産防止にあり、企業経営の維持管理ないし保全管理にあるといえます。そして、クライシス・マネジメントは、このような危機を予知し、その危機を制御し、危機に対して備えるための管理的活動であり、危機についての合理的処理とその費用化の活動であるともいえます。

 このような危機が発生した場合の一般的な対応策としては、①被害の最小化、②不測事態への適切な対応、③事業再開対応(Recovery Plan)、④事業継続計画(Business Continuity Plan 略して「BCP」)などがある一方で、危機の予知・予測や危機の再発防止など予防措置が重要であるとされています。

 また、危機管理の問題として重要なのは、危機に遭遇した場合、如何に対応していくかですが、その対応策として、「リカバリー(再開措置)」、「継続性の確保」の2点が重視されるようになってきています。リカバリーは、事後対策に位置付けられますが、継続性の確保は、どちらかというと事前対策の側面が重視されています。

3 事業継続計画(BCP)の意義

 米国同時多発テロ事件が発生して以降、事業の継続性確保が企業経営にとって、大きな関心事になりました。その代表的なものが事業継続計画(BCP)であり、このBCPは、自然災害や事故等の発生に伴って日常の事業活動が中断を余儀なくされた場合に、可能な限り短い期間で、事業活動のうちの最も重要な機能を再開できるように、事前に計画・準備し、かつ継続的なメンテナンスを行うリスクマネジメントの一つだとされています。そのような意味合いから、事業継続マネジメント(Business Continuity Management 略して「BCM」)とも呼ばれています。

 我が国でも、事業中断の回避や備えという観点では、クライシス・マネジメントの一環として、既に多くの企業が事業継続計画の策定等に取り組んでいます。代表的な例としては、企業が製品の生産等に必要な図面やデータ等のバックアップシステムを確保することであり、首都圏に本拠を置く企業であれば、首都圏以外の中京圏や関西圏にデータセンターを保有し、そこでデータを同時にバックアップしておくことなどが挙げられます。事前の準備が適切に行われていれば、仮に重大なリスクが顕在化し、事業の中断に至ってしまったとしても、いち早く重要な機能を復旧・再開し、事業を継続していくことが可能となります。

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企業におけるリスクマネジメント

2022-05-29

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1 リスクマネジメントの基本的考え方

 企業活動に伴う各種リスクを100%管理することは不可能です。100%に限りなく近づけることは可能ですが、そうするには多大な費用がかかります。最近では、企業の各組織において、それぞれの業務に関連するリスクの洗い出しをする場合が増えていますが、そこでリストアップされたリスクを全て管理することを要請されているわけでは決してありません。各種リスクに対する分析を通じて、当該企業の経営に重大な影響を及ぼしかねないリスクから優先的に管理することが求められています。

 まずは、リスクを認識することが重要になります。管理対象とする必要のないものであっても、組織としてはその内容を認識しておくことが必要です。企業を取り巻く各種リスク及びリスクの顕在化に伴う損失には、以下のようなものがあります。

【自然・人的要因リスク】

・設備事故

・自然災害

・各種公害

・エネルギー問題

・製品、原材料等の安定供給

・製造物責任

・品質低下等

・情報漏洩

・不正アクセス

・情報遮断等

【社会的要因リスク】

・訴訟

・知的財産権

・独占禁止法

・長時間労働

・労働災害

・雇用差別

・内部告発

・情報公開

・地域貢献活動

・文化摩擦等

<損 失>

●財政的損失

・設備損害

・供給停止

・補償等

●人的損失

・社員・第三者死傷

・追加業務発生等

●社会的信用損失

・社員の意識・意欲の低下

・人材、資金徴収力の低下等

2 リスクに対する認識

 各種リスクを認識する方法には様々なものがあります。代表的な方法について紹介します。

 ⑴ チェックリスト方式

   社内規程やマニュアルなど、既に成文化されたものを基に、文書や記

  録の状況などをチェック項目化し、リスクを洗い出す方法

 ⑵ アンケート方式

   過去の経験やその他の情報源から、リスクと考えられる項目をリスト

  アップすることによりあらかじめ候補を準備し、担当者に潜在性の有無

  を問う方法。

 ⑶ ブレインストーミング方式

   複数の担当者により、各種リスクに関してそれぞれ自由に意見を出し

  合い、出された意見を適宜分類してリスクをリストアップする方法

 ⑷ インタビュー方式

   当該業務を担当していない比較的リスク認識力の高い担当者が、イン

  タビュー形式で各種リスクに関する問いかけを行うことで、リスクを洗

  い出す方法。

 ⑸ イベントツリー方式

   ある事象を基に、次々と発展する状況を整理し、可能性を導き出すこ

  とで当該事象が誘引する別のリスクを洗い出す方法

 ⑹ シミュレーション方式

   地震などの災害時や停電など、業務の中断が予測される事象発生時 

  に、どのような状況に陥るのかなど、シミュレーション的にリスクを洗

  い出す方法。

 このようにリスクを洗い出し、その内容を認識する際に、各種リスクが顕在化する蓋然性には当然に差があります。しかし、可能性はゼロではありませんので、「リスクは生じない。」「あり得ない。」といった考えを排除することが大切です。リスクマネジメントでは、最悪の状況を取り上げ、文書化し、可視化することが重要になります。また、「リスクは必ず顕在化する。」「人間は間違いを犯す。」といった前提を受け入れることも必要です。「リスクの顕在化はあってはならないことだ。」と強調し過ぎると、それが過度なプレッシャーとなって、ミス等を隠すようになり、隠蔽工作へと発展するおそれがあります。当たり前のことあっても文書化し、可視化しておくことが大切です。

 全社的リスクマネジメントとしては、企業内の各組織において各種リスクを認識し、管理することが求められますし、「考える」ことが必要となります。それにより組織相互間あるいは社員相互間において認識の相違や新たな気付きを発見することがつながります。

3 リスク評価

 リスクを認識することができたとして、その全てに対応することは難しいでしょう。そこで、認識されたリスクの中から、組織としてどのリスクから対応するかという優先順位を決定することが重要になります。そのためにも、リスクの評価が必要になります。

 リスクの評価方法には、特定の計算式があるわけではなく、企業内のそれぞれの組織が独自に計算式や算出に使用する情報、評価基準などを準備しておくことが望まれます。できれば数値化することで、リスク分析の際に比較検討をしやすくなります。ほかに、リスクの発生頻度の目安やそれを数値化するという方法もあります。

 これは、各種リスクに優先度を付けるための評価ですので、あまり厳密な評価をする必要はなく、以上のように特定されたリスク等につき、リスクが顕在化した場合の企業への影響度と発生頻度を検討し、重要度を算定することとなります。そして、リスクの企業に対する影響度と発生頻度を大・中・小に区分することで、優先度や重要度を判定することになります。

4 リスクへの対応

 各種リスクを認識、評価した後は、実際にリスクに対し対応していくことになりますが、対応は、基本的に、「回避」「低減」「移転」「保有」という4種類に分類することができます。

 まず、「リスクの回避」とは、発生頻度の高いリスクを顕在化させるおそれのある取引は行わないことを意味しますが、リスクが潜在する根本的原因を排除するという意味であることもあります。

 次に、「リスクの低減」とは、リスクの回避はしないとしたものの中で、その発生の予防を行うこと、さらにはその影響度又は発生頻度を低減させることを意味します。その結果、損失の低減につながります。

 さらに、「リスクの移転」とは、リスクの低減対策を講じることが困難な場合、あるいはリスクの低減対策を講じたにもかかわらず、まだ大きな損失の可能性が残っているような場合に、そのリスクを他へ転嫁する、つまり移転するという意味です。このリスク移転の典型的な例としては、保険を付保することや、契約等により他に転嫁し、分担させることなどが当たります。為替変動リスクをカバーするための為替予約などのオプション契約やデリバティブ取引によるヘッジなどもこれに該当します。

 加えて、「リスクの保有」とは、発生頻度や企業への影響度がそれほど大きくないような場合、「何もしない。」という選択をすることを意味します。つまり、リスクをそのまま受け容れることになりますが、あくまでリスクマップなどからは除外せず、リスクの発生可能性や影響度等を認識しておくことが必要です。

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企業における法務業務の変遷及び具体的な法務業務の内容 その2

2022-05-22

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 5月15日掲載記事「2具体的な法務業務の内容」の続きです。

 ③契約書の審査・作成

 企業間取引のための各種契約の締結及び各契約内容の審査を行うことは企業法務の主要な業務の一つといえます。現在は、法務業務のうち、日常的に関与する業務の大半が日々の取引に伴う契約書との格闘といっても過言ではないかもしれません。とはいえ、大手企業はもとより、中堅企業や比較的規模の大きい中小企業においても、日常の取引に伴う全ての契約を審査することはほとんど不可能です。

 通常は、新規取引、国際的取引、あるいは企業買収やアライアンス等の重要な契約・特殊な契約等に限定して審査業務を行わざるを得ないところも少なくないものと推察します。このような審査業務の対象契約以外の定型的な契約については、標準的な契約フォーム等を準備し、社内ネットワークやクラウドシステム等を利用して企業内で共有し、その利用を推進することを通じて、法務担当部門の業務負担の軽減を図りつつ、各種リスクの回避や紛争予防といった成果をあげることが期待されているといえます。

 ④重要取引の法的審査及びリスクの分析

 法務担当部門にリスクマネジメント機能の一部を担うことが期待されている場合、その代表的な役割は、重要な取引における法的リスクを含む各種リスクを分析し、適切な対策を講じることになるでしょう。

 想定されるリスクを回避し、あるいは転化するには、取引スキームの変更を検討しなければならない場合もあります。その場合、その検討は当該取引の開始以前に行うことが重要になりますが、法務担当部門にそのための知識やノウハウがなければ、当該取引から発生する法的リスクを含む各種リスクの分析ができない可能性が高いため、法務担当部門としては、企業から寄せられるリスクマネジメント機能に対する期待に応え得る能力をあらかじめ備えておくことが重要です。

 このような各種リスクの分析を適時適切に行うことができれば、リスクへの対応やリスク軽減のための対策も可能となり、そのために必要な契約条項の検討や作成等にも大いに役立つことになります。これは、リスクをあらかじめ回避するという「予防法務」の側面のほか、「戦略法務」としての役割を果たすことにも繋がります。

 ⑤知的財産権の管理

 情報化社会の進展により、知的財産権に対しての注目が高まり、知的財産権の管理も企業経営における重要なリスク管理の対象になっています。初期の頃は、知的財産権管理の中心は商標権の管理でしたが、最近のようにビジネスモデル特許など取引方法等が特許権の対象となり、あるいはICTの進展に伴い企業内における技術開発や企業間の共同開発等が増え、特許権等の管理が増大する傾向にあるといえます。

 これら特許権等の技術ライセンス業務や商標の実施許諾業務等が増えてくると、ライセンス契約書の作成やその内容の検討業務を中心として、特許に関連する訴訟等も、訴訟管理の一環として法務担当部門が対応することになります。

 ⑥株主総会

 株主総会に関連する業務は、法務担当部門が専門的に担当するというよりは、伝統的に総務部等の組織で担当している会社が多く見られます。株主総会の準備のなかで、招集通知等の書面については、弁護士等の専門家による事前チェックを受けますが、想定問答の作成やリハーサル等は、社内の組織で行うことになります。その過程で、法務担当部門は、必要な支援や協力を行います。

 最近では、株主総会のリハーサル等を行う企業が増えていますが、株主にとっての重要な関心事については、十分な配慮を払わなければなりません。取締役会等の運営に関する質問や、コーポレート・ガバナンス・コードへの対応等に関心を寄せる株主が増えていますので、それらに対して適切に対処しなければなりません。仮に、不祥事当があれば、特に慎重に対応することが肝要です。

 これら株主総会の準備段階においても、法務部門として、その専門的な立場から必要な協力を行っていくことが求められています。また、最近では、株主に対し、様々な企業情報が開示されており、豊富な知識と経験をベースに質問をされることもありますので、事前準備の重要性・充実化の要請がいやが上にも増しているといえます。

 ⑦訴訟管理

 法務業務の中心として、クレーム対応や訴訟等紛争解決に対する業務があります。通常では、クレームや紛争は、協議や第三者の関与によりそのほとんどが解決されるのですが、経営上重要な事項や、どうしても公正中立な立場にある裁判所等の法的判断が求められるケースでは、訴訟等の手段によって解決を目指すことになります。

 訴訟手続等の利用に至った場合の事務処理や証拠資料の整理等は、法務担当部門が、顧問弁護士と相談・協力しながら行うことになります。つまり、法廷においては、弁護士がその訴訟実務を担当し、法務担当部門は、企業組織内において必要な意思決定や弁護士とのコミュニケーションなどを、弁護士と共同して行うことになります。最近では、インハウスローヤーと呼ばれますが、弁護士資格を有する者を役員あるいは社員として迎え入れ、法務業務に当たらせる企業が少なくありません。インハウスローヤー導入により、当該企業の法務部門の充実・強化が図られることは望ましいことですが、このような導入企業であっても、訴訟実務そのものを企業内弁護士に任せることは少なく、ほとんどの場合、外部の顧問弁護士を代理人として起用し、訴訟等の対応に当たらせることが多いようです。

 ⑧法令動向フォロー

 法務業務を円滑に実施するためにも、また、企業がコンプライアンス(法令遵守)を徹底するためにも、日頃から法令の制定改廃の状況をチェックするなどの法令動向に関する情報収集は非常に重要です。このような法令情報を企業内に周知徹底するためにも、法令動向をニュースとして社内へ提供し、あるいは企業内で説明会を開催するなどすることが法務担当部門の重要な役割となっています。

 ⑨企業内規程集の整備

 法務担当部門の役割は、企業経営におけるリスクマネジメント機能の一部を担うことである旨お話ししましたが、全社的なリスクマネジメント体制を構築し、運用・統制するための方法として、社内で様々な規程を策定・整備することが求められています。

 法務担当部門としては、全社的・統一的な規程類等の策定に関して、中心的な役割を果たすことが求められます。また、各事業部門に妥当する個別の規程類等に関しては、各部門で策定する企業が多いと思われますが、全社的な諸規程等との整合性や、用語の統一等の共通ルールについては、法務担当部門が主導的役割を担うことが求められています。

 かつては、社内で策定された規程類や各種マニュアル等は、管理職にまとめて配布し、その手元で社内ルールの確認等が行われていましたが、最近では社内ネットワークやクラウドシステム等を利用して企業内で共有し、誰でも、いつでも閲覧できる状況になっているのが通常ですので、これらの運用や管理に当たっても、法務担当部門の役割は非常に重要になっています。

 ⑩コンプライアンス教育その他社内法務教育

 企業経営においては、企業内の法務担当者を含め、全ての役職員が法令遵守を適切に果たさなければなりません。そのためには、企業活動に最も密接に関連する法分野において、必要な法令遵守についてのマニュアル等のコンプライアンスシステムを構築しなければなりません。たとえば、独占禁止法コンプライアンスマニュアルや企業行動基準の策定等を中心とする法務マニュアルの作成と、それらの企業内関係者に対する周知徹底です。そのための企業内教育も重視されるところであり、これらの機能を十分に果たすことが法務担当部門には期待されています。法令遵守が叫ばれるようになって久しいなかで、企業をめぐる不祥事は後を絶たないのであって、コンプライアンス領域における法務担当部門の役割は、今後ますます重要になっていくものと思われます。

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企業における法務業務の変遷及び具体的な法務業務の内容

2022-05-15

 皆さま、こんにちは。

 弊所のコラムをご覧いただき、ありがとうございます。

 本日も企業法務に関する記事を掲載させていただきます。

1企業における法務業務の変遷

 昨今、企業法務の重要性が広く認識されるようになり、大企業や上場企業だけでなく、ある程度の規模の企業は、法務業務を担当する法務部などの専門組織を設けるようになってきました。また、企業法務を担当する専門組織はなくても、法務専任の担当者を置いている企業や、専任ではないが一定数の社員に他の業務と法務を兼務させている企業も増えています。このように企業の組織内において、何らかの形で法務業務を担当するスタッフが増えている事実は、企業という組織において、法務業務の重要性がより意識し理解されるようになってきたことを示しています。

 企業における初期の法務業務は、紛争や問題が起きてから、これらに対処する問題対応型の「臨床法務」でしたが、その後、紛争や問題が起きてからの対処では遅いということが自覚され、それらを事前に予防することの重要性が強調されるようになり、取引自体や契約書の審査等をはじめとする「予防法務」の必要性が謳われるようになりました。そのために、自ら法務の組織を拡充するところが多くなり、予防法務が法務担当業務の中心とされるようになってきました。

 その後、企業経営に重大な影響を及ぼす主要な案件に対しては早い段階から関与することが求められるようになり、「戦略法務」も重視されるようになりました。また、最近では、法令遵守(コンプライアンス)をはじめとして企業経営上の問題に関心が高まるとともに、経営に関与する法的な問題にも関与する「経営法務」が注目されるようになっています。

2具体的な法務業務の内容

 では、法務業務の内容とは、具体的にどのようなものでしょう。その内容は、対象企業によって当然に異なりますが、ある程度の類型化を試みれば、①与信管理、②不良債権の管理・回収、③契約書の審査・作成、④重要取引の法的審査及びリスク分析、⑤知的財産権の管理、⑥株主総会対応、⑦訴訟管理、⑧法令動向フォロー、⑨企業内規程集の整備、⑩コンプライアンス教育その他社内法務教育、といった内容を挙げることができると思います。

 今回は、①の与信管理と②の不良債権の管理・回収について整理させていただきます。

 ①与信管理

 企業活動に当たっては、取引に伴い生じる種々のリスクを極小化することが求められます。そのうち、企業にとって最も身近な問題は、債権回収に係る貸倒れのリスクを回避することにあるといっても過言ではないでしょう。企業にとっては、会計上の利益はもちろん、最終的に、債権を回収してはじめて利益が実現することになります。

 そのため、債権の貸倒れリスクを減少させる方法として、取引を始める場合の相手先企業の審査から、取引の限度額設定等の与信管理が重要な課題となります。一般的にこのような与信管理の業務は、企業分析という専門的な知識が必要になりますので、そのための別組織として審査部等が行っている企業が多いと思われますが、法務担当部署において実施しているところもあります。

 また、与信管理は審査部等で行っているものの、担保取得業務等の債権保全業務は、法務部で担当しているという企業も多いようです。

 ②不良債権の管理・回収

 取引において発生した不良債権に関する経理処理等は、その債権の回収の可能性の判断や回収時期等が影響することになります。これら債権の回収に関連しては、対象企業の整理等について法的手続が関係している場合もあり、倒産関連法の知識や倒産実務に関する経験も必要です。また、回収そのものに関しても、法的手続が関係することもあるため、法務担当部署において担当するところも多いようです。あるいは、倒産手続の開始や手形・小切手の不渡り等、倒産の兆候が見られると直ちに法務担当部署が乗り出すというところも少なくないようです。

 不良債権が発生してしまった場合の効果的な回収やその処理は、企業経営にとって非常に重要な事柄になりますので、経営管理の一環として本来は同一の組織で行うことが望ましいといえるでしょう。どうしても、不良債権の回収・管理業務の一部に法務担当以外の組織を関与させる必要がある場合でも、不良債権回収の可能性の評価や担保物件の評価、貸倒引当金の積立処理、あるいは回収不能の場合の貸倒償却の決定等に関し、法務担当組織からいつでも必要な協力を行うなど、部門相互間の連絡連携を密にすることが重要です。

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企業を取り巻く環境変化と企業法務の今後

2022-05-08

 皆さま,こんにちは。

 弊所のコラムをご覧いただき,ありがとうございます。

 これから、何回かに分けて、企業法務に関する記事を掲載させていただきます。

 昨今、インターネットを始めとする情報技術(ICT)の急速な進歩により、企業ビジネスを取り巻く環境が劇的に変化しています。最近では、各種クラウドサービスが発達するとともに、ビッグデータ等の利活用が促進されるなど、インターネットを利用した経済活動の進歩によって、企業ビジネスや社会のあらゆる分野で歴史的な転換点を迎えています。

 インターネットの発達は、かつてないグローバリゼーションを後押しする原動力になっています。グローバル化した世界経済システムは、市場経済をベースとしながら規制緩和が進み、事前規制型社会から、自己責任に基づく事後規制型社会への移行を促しています。

 このような急速な情報技術の進歩、企業活動のグローバル化、事業展開の迅速化及び最近の国際情勢の変化等の状況において、環境問題や消費者問題等の新たな社会的規制も強化されることになり、企業を取り巻く環境は厳しく、企業活動に伴うリスクはより多様で複雑になっているといえるでしょう。

 企業や企業ビジネスにとっては、市場経済が進展していくなかで、株主、従業員、顧客、取引先、一般消費者といった多様な利害関係者に対する責務がより重視されるようになってきており、社会的な評価がより求められるようになってきています。

 我が国においては、従前に比して企業再編が活発に行われるようになり、分社化や従来の企業グループの枠を超えた合併等が行われ、雇用の流動化も急速なスピードで進んでいます。その変化に応じて、従来のような日本的経営の特徴だとされてきた従業員相互間あるいは経営者サイドと従業員との間における暗黙の了解や、友好的な信頼関係に依存した経営管理のあり方にも限界が生じてきています。コーポレートガバナンス改革の一環としての社外取締役制度の導入等も、第三者的な客観的評価が常に求められているということにほかならず、外部に対する適切な情報開示や説明責任という経営の透明性が求められています。

 以上のような社会的進化のスピードが速く、また法令遵守を超えた社会的責任や経営の透明性が重視される状況においては、多様で複雑なリスクをいかにコントロールするかというリスクマネジメントの問題が、企業にとっての重要な経営課題となっているといえるでしょう。また、そのための内部統制システムをいかに構築し、運用するかという点がこれからの企業活動及び企業経営にとって、最も重視されるようになっています。

 多様なリスクにさらされている企業や企業のビジネス活動における企業法務の役割も、自ずとその重要性が増しており、法令遵守等の責任も重くなっています。企業法務の役割として、従来は、紛争やクレーム処理を中心とした「臨床型」の役割のイメージが強かったのですが、今では紛争を未然に防止するのがより重要な役割であると認識されるようになり、経営環境の変化と法の変容に対応して、より戦略的かつ経営的な活動が求められるようになってきています。

 このように企業をめぐる様々な環境の変化とともに、企業法務に求められる役割を認識しつつ、今後どうなるのか、またどうあるべきか、さらには法務人材の養成をどうするか等を考えることが重要です。このことは、企業経営者にとって、また企業法務に携わる者たちにとっても非常に重要な課題になっているといえるでしょう。

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公訴時効撤廃の切実な願いに思う

2021-12-07

 皆さま,こんにちは。

 弊所のコラムをご覧いただき,ありがとうございます。

 先日の新聞に,ひき逃げ死亡事故の被害者遺族が,死亡ひき逃げの公訴時効撤廃を求める切実な願いに関する記事が掲載されていました。

 遺族は,事故により,掛け替えのない当時小学4年生であった被害者を奪われ,それ以降悲痛に暮れる日々を送りながら,「人命を奪った者の逃げ得を許す制度はおかしい」「犯人が捕まらない限り,息子の無念は晴れない」として,公訴時効の撤廃を求める署名集めを始めたといいます。そして,その署名は,約6万人分に達し,近く法務省等に提出されるそうです。上記の思いは,大切な家族を理不尽に奪われた遺族が抱く心情として当然であり,同じ子どもを持つ親として身につまされる思いです。

  そもそも,公訴時効制度とは,どのような趣旨に基づくものなのでしょうか?

1公訴時効制度の趣旨

 公訴時効とは,犯罪が行われたとしても,法律の定める期間が経過すれば,犯人を処罰することができなくなるものです。制度の根拠としては,いくつか考え方がありますが,一般に,時間の経過によって被害感情・応報感情が薄れ,犯罪の社会的影響が弱くなることや,時間の経過により犯罪に係る証拠等が散逸し,その結果適正な裁判の実現が困難になることなどが挙げられます。

 以前は,法律に刑罰として「死刑」が定められた「殺人罪」「強盗殺人罪」などの重罪であっても,犯人を検挙できずに25年が経過すると,公訴時効が成立し,その後仮に犯人を特定することができても,その者を処罰することは一切認められませんでした。

2殺人罪等の重大事案に係る時効廃止等の経緯

 しかし,この公訴時効制度に対しては,かねて殺人事件等の遺族の方々から,「大切な家族を奪われたのに,一定の期間が経過したからといって犯人が処罰されなくなるのは,到底納得できない。殺人罪等については公訴時効を見直してほしい」旨の声が高まり,殺人罪等の事案については,時間の経過による被害感情の希薄化といった公訴時効制度の根拠が必ずしも当てはまらないのではないかとの指摘がなされていました。

 そして,このような指摘等を契機として,殺人罪等の一定の犯罪については,公訴時効を廃止し,あるいは,公訴時効を延長して,長期間にわたり刑事責任を追及することができるようにすべきとの意識が国民の間で広く共有されるようになりました。

 その結果,平成22年4月27日,「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成22年法律第26号)が成立し,殺人罪等人を死亡させた犯罪であって死刑に当たるものについては公訴時効を廃止するなどの法整備がなされました。

 改正前後の内容の変更は,以下の表のとおりです。

           法定刑改正前改正後
「人を死亡させた罪」のうち,法定刑の上限が死刑である犯罪(例:殺人罪)
25年時効なし
2  「人を死亡させた罪」のうち,法定刑の上限が無期の懲役・禁錮である犯罪(例:強制性交等致死罪)15年30年
「人を死亡させた罪」のうち,法定刑の上限が20年の懲役・禁錮である犯罪(例:傷害致死罪,危険運転致死罪)10年20年
「人を死亡させた罪」のうち,法定刑の上限が懲役・禁錮で,上記2・3以外の犯罪(例:自動車運転過失致死罪)5年又は3年10年

3死亡ひき逃げ事案に対する時効の当否

 現行法を前提にすると,死亡ひき逃げ事案について,故意犯である危険運転致死罪が成立する場合には20年の時間経過により,過失犯である自動車運転過失致死罪が成立する場合には10年の時間経過により,それぞれ公訴時効が成立します。そして,一旦時効が成立すると,その後仮に犯人を特定することができても,時効の壁によりその犯人を処罰することができなくなります。

 この点,識者の間でも意見が分かれ,「時間の経過とともに証拠が散逸しかねず,時効の撤廃には慎重であるべきだ」という意見がある一方で,「遺族感情に配慮すれば,逃げ得を許せるわけがない。人を死亡させた罪では時効を廃止すべきだ」という意見もあります。

 私は,死亡ひき逃げ事案については,公訴時効制度の根拠が妥当せず,故意犯・過失犯の別なく,時効を廃止すべきであると考えます。

 まず,被害感情・応報感情の点ですが,大切な家族を理不尽に奪われた死亡ひき逃げ事案の遺族の方々の被害感情・応報感情が時間の経過とともに薄れていくということはあり得ません。遺族は,一様に事件の真相究明と犯人の厳正な処罰を望み続けるのであり,かかる遺族感情は,最大限尊重されなければなりません。

 また,証拠の散逸による適正な裁判の実現困難という根拠も,死亡ひき逃げ事案には妥当しないと思います。すなわち,死亡ひき逃げ事案は,故意犯・過失犯の別なく,当該犯行が公道上で行われます。犯行現場がよほど人目に付きにくい辺鄙な場所でもない限り,当該犯行は早晩警察の知るところとなり,人の死亡結果を伴う重大事件として初動捜査が徹底して行われることになります。

 昨今,防犯カメラの普及や科学捜査の発展により,死亡ひき逃げ事案の検挙率が向上しているようです。死亡ひき逃げ事案を認知した警察により,犯行現場等に係る科学捜査・客観的捜査が徹底して行われ,収集された証拠は警察等によって厳重に管理されます。事件の発生から警察に認知されずに長らく時間が経過してしまった事案などでは,証拠の散逸云々の懸念が拭えないケースもあると思われますが,大部分のケースにおいて警察に事件が早期に認知され,初動捜査が適切に行われる死亡ひき逃げ事案に対しては,証拠の散逸による適正な裁判の実現困難という根拠も当てはまりません。

 さらに,私は,犯人の更生や社会復帰の観点からも,死亡ひき逃げ事案に関しては,故意犯・過失犯の別なく,公訴時効を廃止すべきであると思います。私も例外なくそうですが,人間は,弱い生き物だと思います。誠に残念ですが,人の死亡結果を伴う重大事故を惹き起こしながら,保身的動機から被害者の救護措置等を講じることなく現場から逃走してしまうケースが後を絶ちません。

 しかし,血の通った,まともな精神の持ち主であれば,被害者の尊い命を一方的に奪う重罪を犯しながら,自ら犯した罪ときちんと向き合うことをせずに,心穏やかに日常生活を送ることなど到底できないのではないでしょうか。警察に認知されぬまま,長きにわたり検挙や処罰を免れることができても,尊い命を理不尽に奪ってしまった旨の罪の意識に常に苛まれ,一日として心休まる日は訪れないのではないでしょうか。

 犯人が更生し,健全な社会復帰を果たすには,その前提として,その者自身が自ら犯した罪と正面から向き合い,反省や贖罪の念を深めるとともに,犯した罪に見合った刑事責任をしっかり負うことが出発点になると思います。犯人が自ら犯した罪を清算して更生し,生涯にわたり贖罪の念を抱きつつも,わだかまりなく前を向いて生きていくためには,犯人をして犯した罪に見合った刑事責任を負わせることは必須であると思います。かかる観点からも,私は,死亡ひき逃げ事案に関しては,故意犯・過失犯の別なく,公訴時効を廃止すべきであると考えます。

 弊所のコラムをご覧いただき,改めて感謝申し上げます。皆さまとのご縁に感謝し,日々精進して参ります。

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